事件の概要

今市事件とは、2005年12月1日、栃木県今市市(現:日光市)で発生した女子児童殺害および死体遺棄事件です。

被害にあった小学1年生女児は、下校途中に誘拐・拉致され、翌2日、自宅から約60km離れた茨城県常陸大宮市の山林から遺体で発見されました。

今市事件は、異常な状況であったことから、捜査が難航しました。
被害者は着衣がなく、胸を10回も刺されており、犯人の動機が見当つかず、凶器や遺留品が見つからず、有力な目撃情報もなく、証拠が隠滅された痕跡があるなど、事件を解決するための手がかりが非常に少ない状況でありました。

犯人の浮上

事件発生から8年後の2014年2月18日、迷宮入りと見られていた事態が急変します。
2014年1月29日、母親ともに偽ブランド品を所持販売していたという商標法違反容疑で逮捕されていた勝又拓哉さんが宇都宮地検の検事から今市事件についての取調べを受け、自白しました。

勝又さんはこの検事からの取調べについて、事件への関与について明確に否定したにもかかわらず、ファインダーでデスクを叩き、大声をあげるなど、一方的で高圧的な取調べが行われ、状況が理解できず、その場を逃れるため、調書にサインをしてしまったと述べています。

また、この時の取調べは、商標法違反容疑の取調べであったため、録音・録画がされていなかったことも裁判で明らかになりました。

自白の裏どり

宇都宮地検は、勝又さんを商標法違反で起訴しました。
同日の午後から商標法違反での拘留を利用して女児殺害事件で取り調べを開始しました。
2014年6月3日に殺人罪で逮捕されるまでの3ヶ月半の間、別件で拘留され、殺人についての取調べが行われました。

警察によって取調べを受けた際、録音や録画がされておらず、今となっては、その過程を確認することができない状況です。

勝又さんは、取り調べ期間中に担当刑事から暴力を受け、身体的に怪我をしたうえ、担当検事や刑事から暴言を浴びせられ続けたため、精神的に不安定になりました。
このような過酷な取り調べが殺人罪で逮捕される前に行われました。

逮捕から起訴

2014年6月3日に栃木県警は、勝又さんを女児殺人容疑で逮捕しました。
同日からようやく警察・検察全ての取り調べにおいて録音・録画が行われるようになりました。

この期間の取調べは、自白の裏どり期間中に聴取した内容の確認が行われました。
そのため、無実を訴えていた場面や供述ができなかった場面などが撮影されていませんでした。

2014年6月24日、宇都宮地検は、勝又さんを女児殺人罪で起訴しました。

裁判(一審)

殺人罪で起訴されたのち、「自分はやっていない」無実であることを訴えるため、国選で弁護人を依頼します。
弁護人は、冤罪の可能性があるとして他2名、合計3名で勝又さんの弁護をすることになりました。

2016年2月29日に宇都宮地裁で初公判が開かれ、勝又さんは、「殺していません」と明確に無罪を主張しました。
裁判では、物的証拠がない中、勝又さんが、2014年6月に自白するなどして作成された5通の供述調書が最大の争点とされ、公判では、検事の取調べに勝又さんが、詳細に犯行を自白する映像もモニターで再生されました。
自供について勝又さんは、「パニックになり調書にサインした」と証言しました。

2016年4月8日、宇都宮地裁(松原里美裁判長)で判決公判が開かれ、求刑どおり無期懲役が言い渡されました。

また、この裁判に関わった裁判員は、映像がなければ有罪心証を持てなかったなど、証拠が脆弱であり、取調べ映像が決め手になったことが述べられている。


裁判(二審)

一審判決後、弁護団は、冤罪の疑いがあるとして、国民救援会に支援を要請し、冤罪事件に有力な弁護士が多数合流し、二審に向けて準備が進められた。

二審では、7つの状況証拠が争点に設定され、いずれも弁護団の主張が認められた。

しかし、2018年8月3日 東京高裁(藤井敏明裁判長)で控訴審の判決公判が開かれ、藤井敏明裁判長は、取調べの録音録画映像で事実認定した違法性や、殺害の日時場所の事実誤認を指摘して一審判決を破棄したが、「状況証拠を総合すれば犯人であると認められる」などとし、訴因変更を行うことで、自白の矛盾点であった殺害方法・殺害場所・殺害日時を棚上げにし、多義的に取れる手紙の証拠価値を嵩上げし、一審同様、無期懲役を言い渡しました。

裁判(最高裁)

2020年3月4日、最高裁第二小法廷(三浦守裁判長)は、上告棄却を決定しました。
勝又さんの無期懲役が確定しました。
同決定は、職権による判示はなされませんでした。

その後

刑が確定し、勝又さんは、刑務所に収容されました。
現在は、千葉刑務所に服役しています。

勝又さんは冤罪を訴えており、現在再審に向けて準備を進めています。

今市事件の主な流れ

2005年12月1日  栃木県今市市で女児の捜索が開始される。
2005年12月2日  茨城県内の山林で女児が遺体で発見される。
2014年1月29日  勝又さんが商標法違反で逮捕される。
2014年2月18日  勝又さんが商標法違反で起訴される。
2014年6月3日    勝又さんが女児殺害容疑で逮捕される。
2014年6月24日  勝又さんが女児殺害容疑で起訴される。
2016年4月8日    宇都宮地裁で無期懲役の有罪判決が言い渡される。
2018年8月3日    東京高裁で無期懲役の有罪判決が言い渡される。
2020年3月4日    最高裁が上告棄却決定。勝又さんの無期懲役が確定。

今市事件は冤罪かも?有罪判決には多くの疑問がある